東山動植物園で飼育されているツシマヤマネコ
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ツシマヤマネコはなぜ泳いで狩りをするのか|対馬の生態系から読み解く適応の理由

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「ネコは水が苦手」というイメージがあるなかで、長崎県対馬にすむツシマヤマネコが泳いで獲物を狙う姿がテレビで紹介され、意外に感じた人もいるのではないでしょうか。ツシマヤマネコはなぜ泳ぐのか。この記事では、学術データベースや環境省の資料で確認できる事実と、番組が撮影した映像の内容を分けて整理します。

ツシマヤマネコはなぜ泳いで狩りをするのか(結論)

ツシマヤマネコが泳ぐ理由は、もともと泳ぎの得意な種に属しているからだと考えられます。ツシマヤマネコはベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis)の亜種です(亜種とは、同じ種の中で、生息地の違いによって姿や性質にわずかな違いが生まれ、区別されているグループのことです)。IUCN Cat Specialist Group(国際自然保護連合でネコ科を担当する専門家グループ)は、この種を「優れた遊泳者」と説明しています。泳ぐ力があったからこそ、分布域の沿岸にある島々へ定着できたとも述べています。

水辺の獲物を追うときに泳ぐことをためらわないのは、この種が持つ特性の延長と見るのが自然です。ただし、対馬の個体がどのくらいの頻度で、どんな条件のときに泳いで狩りをするのかを数字で調べた一次資料は、2026-09-23時点で見つけられませんでした。

情報 確かさ 根拠
ベンガルヤマネコは泳ぎが得意 学術情報で確認済み IUCN Cat Specialist Group
対馬の個体が泳いで狩りをする 番組の撮影内容(公的資料では未確認) NHK番組ページ
対馬の個体が海を渡る 番組の紹介文のみ(公的資料では未確認) NHK番組ページ

ツシマヤマネコの基本情報(分類・大きさ・生息域)

東山動植物園で飼育されているツシマヤマネコ

出典: Prionailurus bengalensis euptilurus tsushima cat by A machun / CC BY-SA 4.0(2016年5月17日、東山動植物園で撮影)

まずは、環境省の解説ページをもとに基本情報をまとめます。

項目 内容
学名 Prionailurus bengalensis euptilurus
分類 食肉目ネコ科、ベンガルヤマネコの亜種
分布 長崎県対馬のみ
大きさ 体重3〜5kg、体長50〜60cm
活動時間 薄明薄暮型(明け方と夕方に活発)、単独で暮らす
主な餌 ネズミ類(ツシマアカネズミ、ツシマヒメネズミなど)
その他の餌 鳥類、モグラ類、両生類、爬虫類、昆虫類
すみか 落葉広葉樹林を好み、主に谷筋や低地部を利用
保護上の扱い 環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類、国の天然記念物(1971年)、国内希少野生動植物種(1994年)

大きさは資料によって数字が異なります。対馬市公式ページでは体重3〜4kg、体長70〜80cmとされていますが、この記事では環境省の数値を基本にしています。

なぜ泳ぐのか|遊泳能力の根拠と番組が捉えた狩りの様子

東山動植物園で飼育されているツシマヤマネコ

出典: Prionailurus bengalensis euptilurus tsushima cat by A machun / CC BY-SA 4.0(2016年5月17日、東山動植物園で撮影)

種として泳ぎが得意という学術的な知見

前述のとおり、IUCN Cat Specialist Groupはベンガルヤマネコを「優れた遊泳者」としています。この評価は種全体の一般的な特性であり、対馬の個体を調べて導かれた結論ではない点に注意が必要です。

対馬個体そのものについては、IUCN Cat Specialist Groupの種アカウントに、対馬島内のオス1頭の行動圏を0.8km²とする記録があります。日本農芸化学会の解説(中島, 2022年)では、対馬のツシマヤマネコの行動圏はオスで0.5〜16.5km²、メスで0.2〜2.5km²と幅があるとされており、このオス1頭の例はかなり狭い部類に入ります。行動圏の広さと泳ぐ頻度を直接結びつける資料ではありませんが、対馬個体の暮らしぶりを知る手がかりの一つです。

対馬での暮らしと泳ぐ行動の関係

環境省によると、ツシマヤマネコは主に谷筋や低地部を利用し、ネズミ類のほかに両生類なども食べます。こうした場所を使って水辺の生き物も食べることを考えると、泳ぐ力が狩りの選択肢を広げている可能性はあります。ただしこれは生態から考えた推測で、対馬で泳ぐ狩りの頻度を調べた研究は確認できていません。

番組が報じた狩りの様子

NHK「ダーウィンが来た!」の番組ページでは、一般的にネコは水を避けるなかで、ツシマヤマネコが泳いで狩りをし、海も渡るという行動が紹介されています。2026年9月27日にも放送が予定されている回です。これは番組の取材で撮影された場面の紹介であり、環境省や対馬野生生物保護センターなどの公開資料には同様の記述が見当たりませんでした。映像は個体の行動の記録として貴重ですが、「対馬の個体はよく泳いで狩りをする」と一般化できるかどうかは、今後の調査を待つ必要があります。

分かっていないこと・説が分かれていること

「海を渡る」は一次情報で確認できていない

「海を渡る」という表現は、2026-09-23時点で調べた範囲では、番組ページと番組を紹介するニュース記事にしか見当たりませんでした。どこを、どのくらいの距離を渡ったのかといった具体的な情報も、公的機関の資料では確認できていません。種として泳ぎが得意なことと、対馬の個体が日常的に海を渡ることは、分けて受け止めるのが安全です。

大陸から分かれた時期|約10万年前説と約2万〜3万年前説

対馬の個体群がいつ大陸の集団から分かれたかについては、2つの推定があります。用いた手法が異なる点がポイントです。ミトコンドリアDNA(細胞の中にある小さな器官が持つ、遺伝情報のごく一部)を調べた1995年の研究と、全ゲノム解析(生物が持つ遺伝情報全体を調べる、より新しい手法)を用いた2025年の研究とで、推定される年代が違っています。

推定年代 根拠 主な採用・発表
説A 約9万〜10万年前 1995年の研究(ミトコンドリアDNAの一部の遺伝子を比較) 環境省など公的機関の解説の多く
説B 約2万〜3万年前 2025年の全ゲノム解析(遺伝情報全体から推定) Ito et al. 2025(査読論文)

長く通説とされてきたのは約10万年前ですが、2025年の研究では、それより新しい時期を示す推定が出ています。分析の手法も発表年も違うため、現時点でどちらが正しいとは言い切れません。

近縁種・似た仕組みを持つ生き物との比較

前述のとおり、ベンガルヤマネコの仲間は泳ぐ力によって分布域内の沿岸の島々に定着してきたとされています。日本では対馬のほかに、沖縄県の西表島にもベンガルヤマネコの近縁の仲間であるイリオモテヤマネコがすんでいます。

比較 ツシマヤマネコ イリオモテヤマネコ
すむ場所 長崎県対馬 沖縄県西表島
種との関係 ベンガルヤマネコの亜種 ベンガルヤマネコの近縁の仲間
保全上の懸念 遺伝的多様性の低下 遺伝的多様性の低下

イリオモテヤマネコにも同じように泳ぐ習性があるのかどうかは、今回の調査では一次資料を確認できませんでした。近縁のグループである以上、同様の遊泳能力を持つ可能性はありますが、対馬の個体と同じく、確認できていない情報として扱います。島という限られた場所で暮らす小さな集団に共通する課題といえます。

いま対馬で何頭が暮らしているのか

対馬市厳原町内院で自動撮影カメラが捉えた野生のツシマヤマネコ

出典: 環境省九州地方環境事務所ブログ(下島南部の対馬市厳原町内院で自動撮影カメラにより撮影)

2026年4月1日に環境省九州地方環境事務所が発表した第六次生息状況調査(2020〜2024年度に実施)の結果は次のとおりです。

地域・項目 結果
上島 定住個体が約90頭または約100頭
下島 少なくとも17頭以上(参考値として約30頭または約40頭)
生息を確認した地域 105地域中85地域
繁殖を確認した地域 9地域

下島では1984年以降、確実な生息情報が得られない状態が続いていましたが、2000年代後半になって再び確実な生息記録が得られるようになりました。今回の調査では下島の分布域が大きく広がり、回復傾向と評価されています。一方で上島の一部では減少の可能性が示され、交通事故の増加やシカによる植生の変化(餌となる動物の減少につながる)が脅威として挙げられています。

ツシマヤマネコを実際に見られる場所

対馬野生生物保護センターの外観

出典: Tsushima Wildlife Conservation Center by Ackeyyama / CC BY-SA 4.0

施設 特徴 利用情報(2026-09-23時点)
対馬野生生物保護センター(長崎県対馬市) 1997年に環境省が開設した調査・保護の拠点。野生に戻すことが難しい個体を展示室で公開 開館10:00〜16:30(入館は16:00まで)、月曜・火曜・年末年始休館
福岡市動物園(福岡県福岡市) 1996年から環境省の保護増殖事業(生息域外保全)の一環として飼育・繁殖に取り組んでいる 公式サイトで確認

開館時間や展示状況は変わることがあるため、訪問前に各施設の公式サイトで最新情報を確認してください。

まとめ

対馬野生生物保護センターの外観

出典: Tsushima Wildlife Conservation Center by Ackeyyama / CC BY-SA 4.0

ツシマヤマネコが泳ぐのは、泳ぎの得意なベンガルヤマネコの仲間だからだと考えられます。一方で、対馬の個体が泳いで狩りをする頻度や、海を渡るという行動は、公的機関の資料ではまだ確かめられていません。大陸から分かれた時期も、約10万年前説と約2万〜3万年前説に分かれています。

番組で泳ぐ姿を見て興味を持ったら、対馬野生生物保護センターや福岡市動物園で実際の姿を見てみてください。交通事故やシカによる植生の変化といった脅威を知ることも、島のヤマネコを守る第一歩になります。

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