アンモナイトや魚を捕食するモササウルス(Mosasaurus hoffmannii)の生態復元イラスト
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モササウルスはなぜ海を制覇できたのか|進化した身体の仕組みを研究データから読む

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全長10mを超える巨体で白亜紀後期の海に君臨したモササウルス。恐竜と混同されがちですが、実際にはトカゲやヘビと同じ有鱗目に属する海生爬虫類です。陸のトカゲに近い祖先から出発した動物が、なぜ外洋の頂点捕食者になれたのでしょうか。

この記事では「最強のハンターだった」といった伝聞ではなく、査読論文と研究機関の公式発表で確認できる事実だけを使って、その仕組みを整理します。

結論

モササウルスが海を制覇できたのは、ひとつの強力な武器のおかげではなく、複数の身体的適応が組み合わさった結果と考えられています。研究で裏づけのある主な適応は次の4つです。

適応 何を可能にしたか 主な根拠
サメに似た二葉尾びれ 外洋を効率よく泳ぐ推進力 Lindgren et al. 2013(軟組織化石の直接証拠)
可動する下顎の関節 大きな獲物を丸呑みにする Gnathomortis stadtmani の記載研究(2020年)
胎生(海の上で出産) 陸へ戻らず生活史を海で完結 Field et al. 2015
高めの体温(約31〜36℃) 冷たい海域へ活動範囲を拡大(3属で確認) Harrell et al. 2016

泳力・捕食・繁殖・体温という異なる階層の適応がそろったことで、モササウルス類は生涯を海で完結できる動物になりました。以下、それぞれを根拠とともに見ていきます。

モササウルスとはどんな生き物か

マーストリヒト自然史博物館に展示されたモササウルス(Mosasaurus hoffmannii)の復元骨格

(出典: Mosasaurus hoffmannii – skeleton by Ghedoghedo / CC BY-SA 3.0)

なお「モササウルス」は、学術的には属名 Mosasaurus を指す言葉です。日本語の図鑑やメディアではモササウルス科(Mosasauridae)全体の総称としても使われるため、この記事でも文脈に応じて総称として扱い、属 Mosasaurus を指す場合はその都度明記します。

分類と進化の道筋

モササウルス類は、トカゲやヘビを含む有鱗目に属する絶滅した海生爬虫類のグループです。米国国立公園局(NPS)の公式解説では、現生のオオトカゲ科(コモドドラゴンなど)に最も近縁とされ、最大で全長15mに達したと説明されています。

陸に近い姿から海へ移っていく途中の段階も、化石で確認されています。Bell & Polcyn(2005年)が記載したDallasaurus turneriは、米テキサス州の約9,200万年前(中期チューロニアン)の地層から産出した原始的なモササウルス上科の一種です。体を支えられる程度に発達した四肢を残しながら、派生的なモササウルス類と共通する特徴も持っていました。

生息した時代

モササウルス類が栄えたのは白亜紀後期です。代表種 Mosasaurus hoffmannii の標本は白亜紀最末期、約6,600万年前の地層から見つかっています。一般に、この時期は非鳥類型恐竜なども含む大規模な絶滅(K-Pg境界の大量絶滅)が起きたことで知られており、モササウルス類もこれとともに姿を消したとされます。ただし、モササウルス類の絶滅そのものを直接検証した一次資料は本記事の調査範囲では確認できておらず、そのメカニズムの詳細には踏み込みません。関心のある方は、K-Pg境界の大量絶滅を扱った資料もあわせて調べてみてください。

大きさ

1998年にオランダ・マーストリヒト近郊のENCI石灰岩採石場で発見された M. hoffmannii の標本「Bèr」は、推定年代が約6,600万年前、復元全長11mでマーストリヒト自然史博物館に展示されています。一方でNPSは最大15mという値を挙げており、大きさは種や属によって幅があります。ひとつの数字に一般化しないほうが実態に近いといえます。

なぜ海を制覇できたのか|研究からわかっていること

サメに似た二葉尾びれ

Lindgren, J.らが2013年9月10日にNature Communicationsで発表した研究は、ヨルダンのマーストリヒチアン期の地層から見つかった保存状態のよいモササウルス化石(Prognathodon属)の軟組織痕跡を分析したものです。その結果、派生的なモササウルス類が、現生の外洋性サメに似た三日月形(下葉の大きい半月形)の二葉尾びれを持っていたことが、直接的な証拠として初めて確認されました。

それまで骨格の形から間接的に推測されていた仮説が、軟組織の化石で裏づけられた形です。研究は、遊泳性能の面で外洋性サメに匹敵していた可能性を示唆しています。

獲物を丸呑みにする顎の構造

モササウルス類は下顎の中間に可動性の関節(intramandibular joint)を持ち、下顎を外側・下方向に大きく開いて口の開口部を広げられたと考えられています。ユタ州立大学イースタン校のJoshua Lively氏らが2020年9月23日に発表した新種 Gnathomortis stadtmani の研究では、モササウルス類が魚類・ウミガメ・貝類に加え、自分より小型の他のモササウルス類まで捕食する、呼吸のために水面へ上がる必要のある捕食者だったと説明されています。

ただし顎の可動域や機能の詳細は種によって差があり、機能の全容は骨格形態からの推定を含みます。「どのモササウルスも同じように口が開いた」と単純化はできません。

陸に戻らず産める体

Field, D.J.らが2015年4月にPalaeontology誌で報告した研究は、原始的なモササウルス上科 Carsosaurus marchesettici の妊娠個体化石と、外洋性の地層から見つかった新生子(ネオネイト)の化石を分析したものです。ここからモササウルス類が卵ではなく子を直接産む胎生であり、外洋上で出産していたことを示す証拠が得られました。

繁殖のために陸地や沿岸へ戻る必要がないということは、生活史の全段階を海の上で完結できたということです。ウミガメのように産卵で上陸する制約がない点は、外洋進出の大きな条件だったと考えられます。

冷たい海でも活動できた体温調節

Harrell, T.L.らが2016年にPalaeontology誌で発表した研究は、白亜紀後期のモササウルス3属(Clidastes・Platecarpus・Tylosaurus)の化石骨に含まれる酸素同位体比を分析しました。推定された体温は約31〜36℃で、同時代の魚類の推定体温28.3℃より高く、温血の海鳥 Ichthyornis の推定38.6℃に近い値です。

この結果は、モササウルス類が外温性の魚類とは異なる体温調節(内温性)を持ち、高緯度の寒冷な海域まで活動範囲を広げられた可能性を示唆します。ただし体温調節の生理学的な機序や適応の程度については、研究者のあいだで議論が続いています。

分かっていないこと・説が分かれていること

ワカヤマソウリュウの「背びれ」は確定した通説か

Konishi, T.らが2023年12月12日に記載した新属新種 Megapterygius wakayamaensis(通称ワカヤマソウリュウ)は、2006年に和歌山県有田川町の鳥屋城層(約7,200万年前)で発見された、アジア初のモササウルス類の全身骨格化石です。頭骨から後脚まで全身の約8割が保存されていました。

特徴は、頭骨より大きい後脚のヒレ、モササウルス類として2例目となる前方を向いた両眼視可能な眼、そして椎骨の棘突起の向きから示唆される背びれの存在です。ただし背びれは骨格形態からの推定であり、Lindgren(2013)の尾びれのような軟組織の直接証拠ではありません。記載者自身もモササウルス類の遊泳方法の理解に一石を投じる発見だという趣旨のコメントを残しており、確定した通説ではない点に注意が必要です。

体温調節はモササウルス類全体に共通していたのか

前述のHarrell(2016)の研究対象は、Clidastes・Platecarpus・Tylosaurus の3属に限られます。属 Mosasaurus そのものや、モササウルス科の全種に同程度の内温性があったと一般化することはできません。「モササウルスは温血だった」と言い切る解説を見かけたら、どの属を対象にした研究なのかを確認するとよいでしょう。

似た仕組みを持つ生き物との比較

アンモナイトや魚を捕食するモササウルス(Mosasaurus hoffmannii)の生態復元イラスト

(出典: Mosasaurus hoffmannii restoration by Apokryltaros / CC BY-SA 3.0)

Lindgren(2013)が示した尾びれの形は、モササウルス類と現生の外洋性サメが、系統的にはまったく離れているのに似た形にたどり着いたことを意味します。速く泳ぎ続けるという同じ課題に対して、別々の系統が似た解を出したわけです。

項目 モササウルス類 現生の外洋性サメ
分類 有鱗目(トカゲ・ヘビの仲間)の爬虫類 軟骨魚類
尾びれ 下葉の大きい三日月形の二葉尾(Lindgren 2013) 三日月形の二葉尾
呼吸 肺呼吸。水面へ上がる必要があった えら呼吸

顎についても同じ見方ができます。モササウルス類はヘビと同じ有鱗目に属し、下顎の可動関節で口を大きく開くという特徴を共有していました。海の中で体格の大きな獲物を扱うという条件が、陸のトカゲに近い体をここまで作り変えたと考えられます。

化石を実際に見られる場所

以下は2026-09-09時点の情報です。展示内容や公開状況は変わるため、訪問前に各館の公式サイトで最新情報を確認してください。

  • むかわ町穂別博物館(北海道むかわ町): 同地域から産出したモササウルス類 Phosphorosaurus ponpetelegans(約7,200万年前の地層産)を、むかわ町指定天然記念物として収蔵・展示しています。白亜紀後期の海生爬虫類化石群の展示拠点です。
  • 和歌山県立自然博物館(和歌山県海南市): ワカヤマソウリュウの発見地であり、現在も研究が進められている拠点です。実物化石の常設展示の有無は公式サイト上で明記されていないため、訪問前に公式サイトの最新情報を確認してください。
  • マーストリヒト自然史博物館(オランダ): 復元全長11mの M. hoffmannii 標本「Bèr」が展示されています。

まとめ

モササウルスがなぜ海を制覇できたのか。現時点で有力な説明は、サメに似た二葉尾びれ、大きな獲物を丸呑みにできる顎、陸へ戻らず産める胎生、そして高めの体温という複数の適応が組み合わさった、というものです。どれか一つだけでは外洋の頂点捕食者にはなれませんでした。

同時に、分かっていないことも残っています。ワカヤマソウリュウの背びれのように、従来の遊泳スタイルの理解を揺るがす発見が今も相次いでおり、モササウルス像は更新され続けています。

気になった研究があれば、この記事に貼った原著論文やプレスリリースをたどってみてください。実物の迫力を確かめたいなら、むかわ町穂別博物館のように国内でモササウルス類の化石を展示している施設もあります。訪問前に公式サイトで開館日と展示内容を確認したうえで、白亜紀の海を実際にのぞきに行ってみてはいかがでしょうか。

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