チュプカオルニスの生体復元イラスト
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チュプカオルニスはなぜ歯を持ちながら飛べなかったのか|化石からわかる白亜紀の潜水鳥

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「鳥に歯はない」——現生の鳥だけを見ていると、これは当たり前の常識に思えます。ところが北海道・三笠市の白亜紀の地層からは、歯を持つグループに属し、しかも空を飛べなかったとみられる鳥の化石が見つかっています。チュプカオルニス(Chupkaornis keraorum)です。この記事では「なぜ歯を持ちながら飛べなかったのか」という一点にしぼって、化石から何が読み取れるのかを整理します。

チュプカオルニスの生体復元イラスト

出典: Restoration of Chupkaornis by かずたき / CC BY 4.0

チュプカオルニスはなぜ歯を持ちながら飛べなかったのか

先に結論を書きます。「歯があること」と「飛べないこと」は、同じ理由から生じたわけではありません。歯は祖先から受け継いだまま失われずに残った古い形質で、飛べない体のほうは海に潜って餌をとる暮らしに特化した結果だと位置づけられています。

チュプカオルニスが属するハスペロルニス目(Hesperornithiformes)は、「歯を持つ、足で水をかいて泳ぐ潜水性鳥類」と特徴づけられるグループです(ScienceDaily、2017年8月8日)。口には古い時代の名残を残したまま、体つきだけを潜水用に作り替えた鳥、と考えると分かりやすくなります。

特徴 何から言えるのか 意味づけ
歯を持つ ハスペロルニス目に共通する形質 現生鳥類より古い時点で分岐した系統の名残
翼が極度に縮小 「飛べない海生捕食性の鳥」と特徴づけられている 飛ぶことをやめた
強力な後肢 大腿骨に指状に突出する腓骨稜(脚の筋肉が付着する骨の張り出し)がある 足で水をかいて潜るための推進力

チュプカオルニスの基本情報

チュプカオルニスは、アマチュア化石収集家のケラ兄弟(Masatoshi Kera・Yasuji Kera)が北海道三笠市で発見した標本をもとに記載された新属新種です。属名はアイヌ語で「東」を意味する chupka とギリシャ語で鳥を意味する ornis を組み合わせたもので、種小名 keraorum は発見者であるケラ兄弟に献名されています。

記載論文は、北海道大学の田中智徳氏を筆頭著者とし、小林快次氏(北海道大学総合博物館)、栗原憲一氏(北海道博物館)、Anthony R. Fiorillo 氏(ペロー自然科学博物館)、狩野学氏(三笠市立博物館)が名を連ねる共著論文です(CrossRef 書誌情報)。アジアで見つかったハスペロルニス目としては最古かつ最も保存状態が良い標本とされています。

項目 内容
学名 Chupkaornis keraorum
分類 鳥綱 ハスペロルニス目
発見地 北海道三笠市・蝦夷層群カシマ層
年代 後期白亜紀 コニアシアン〜サントニアン期(約8900万〜8400万年前)
標本 1個体分の9要素(頸椎4個・胸椎2個・左右の大腿骨遠位端・右腓骨中央部)
記載 田中智徳ほか、Journal of Systematic Palaeontology 16巻8号 689-709頁(2017年)

なお体長は約70〜80cmと推定されています。成人の脚の付け根から足先までとほぼ同じくらいの長さ、とイメージするとつかみやすいかもしれません。ただしこの数値は独立した複数の情報源で照合できていないため、あくまで目安として受け取ってください。

なぜ歯があったのか|現生鳥類との違い

現生の鳥類には歯がありません。しかしハスペロルニス目は、現生鳥類につながる系統からより古い時点で分岐したグループで、そのため祖先的な形質である歯を残していたと位置づけられています。つまり歯は「後から手に入れた武器」ではなく、「まだ失っていなかった古い装備」です。

ただし、チュプカオルニスの標本そのものには頭骨が含まれておらず、歯そのものが出土したわけではありません(標本の内訳は後述の「分かっていないこと・注意点」を参照)。「歯を持つ鳥」という説明は、この個体がハスペロルニス目に分類されたことから導かれるグループレベルの特徴づけだと理解しておくと正確です。

なぜ飛べなかったのか|翼の縮小と強力な後肢

ハスペロルニス目は「翼が極度に縮小し、強力な後肢を持つ、飛べない海生の捕食性鳥類」と説明されます。空中を移動するための装備を切り捨て、水中を進むための装備に資源を振り向けた——チュプカオルニスの体は、その方向に振り切った設計だということになります。

新属新種と判断された決め手も、まさに脚と胴体の骨にありました。大腿骨に指状に突出する腓骨稜があること、そして胸椎の腹側に深く鋭い縁を持つ側面陥凹があることという、特異な骨格上の特徴の組み合わせです(EurekAlert、Taylor & Francis 発表)。腓骨稜は脚の筋肉が付着する張り出しで、後肢で強く水をかく動きと結びつく部分です。

翼の骨も今回の標本には含まれていません。それでも「飛べない鳥」と語られるのは、ハスペロルニス目というグループ全体がそうした体を持つことが分かっているためです。

分かっていないこと・注意点

読み進めるうえで、押さえておきたい留保がいくつかあります。

  • 記載論文の本文(Journal of Systematic Palaeontology 16巻8号)は出版社サイトへのアクセスが拒否されたため直接確認できていません。本記事の内容は、この査読論文を報じた科学広報記事を経由した情報です(論文の書誌情報自体は CrossRef で照合済み)。
  • 体長「約70〜80cm」は単一の情報源でしか確認できていない参考値です。
  • 標本は1個体分の9要素のみで、頭骨も翼の骨もありません。歯や飛行能力に関する記述は、分類群全体の特徴づけに依るところが大きいと理解してください。

近縁種・似た仕組みを持つ生き物との比較

系統解析の結果、チュプカオルニスはハスペロルニス目のなかで中間的な位置に置かれました。セノマニアン期のパスクィアオルニスよりは進化的に新しく、一方でブロダビスやバプトルニスよりは基盤的(原始的)だと評価されています。

分類群 チュプカオルニスとの関係
パスクィアオルニス(セノマニアン期) チュプカオルニスより基盤的
チュプカオルニス 両者の中間的な位置
ブロダビス/バプトルニス チュプカオルニスより派生的(=より後の時代に分かれ、独自の特徴を発達させた)

近縁種パラヘスペロルニスの復元

出典: Parahesperornis by Петр Меньшиков / CC BY-SA 4.0

近縁種ブロダビス(Brodavis mongoliensis)の復元イラスト

出典: Brodavis mongoliensis by Filet 123 / CC BY-SA 4.0

ブロダビス属3種の体サイズ比較図

出典: Comparison of body size among the brodavid birds by Alyssa Bell and Luis M. Chiappe / CC BY 4.0

「足で水をかいて潜る」というやり方自体は、現生のカイツブリ類やアビ類にも見られます。ただし現生種は歯を持たず、飛ぶ能力も残しています。同じ潜水という課題に対して、白亜紀の鳥と現生の鳥が別々の落としどころを見つけたと考えると、チュプカオルニスの体つきの意味が立体的に見えてきます。

チュプカオルニスの化石を見られる場所

チュプカオルニスの復元レプリカは、国立科学博物館(東京・上野)で2025年1月21日から2月24日まで開かれた特別展「鳥 ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統」で展示されました(展覧会情報)。ただしこれは会期限定の特別展であり、常設展示ではありません。

発見地である三笠市の三笠市立博物館についても、2026年9月10日時点で公式サイトのトップページにチュプカオルニスの常設展示に関する記載は見当たりませんでした(同館はアンモナイトやエゾミカサリュウを紹介しています)。実物を目当てに足を運ぶ前に、公式サイトや電話で最新の展示状況を確認することをおすすめします。

まとめ

チュプカオルニスは、「歯がある」という古い形質を残したまま、「飛ぶ」という鳥の代名詞のような能力を手放した鳥でした。その二つは別々の事情から生まれたもので、化石が語っているのは、白亜紀の海に潜り込んでいった一系統の選択です。

そして北海道のアマチュア収集家が拾い上げた9つの骨のかけらが、アジア最古のハスペロルニス目という位置づけを与えられた——という発見の経緯もまた印象的です。復元レプリカは国立科学博物館の特別展「鳥 ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統」(会期限定・終了済み)で紹介されました。発見地である三笠市立博物館を訪れる機会があれば、最新の展示状況を確認したうえで、地元産の化石がどう伝えられているかをぜひ確かめてみてください。足元の地層が白亜紀の海だった時代の話が、思いのほか身近に感じられるはずです。

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