プロトプテルム科ホッカイドルニスの復元イラスト
Nature

ペンギンモドキはなぜ恐竜の骨と間違われたのか|むかわ町の化石が明かした誤認の理由

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恐竜の骨として発表された化石が、実はまったく別の時代の鳥だった。北海道むかわ町穂別で見つかった1点の化石をめぐって、そんな逆転が起きています。

なぜ最初は恐竜と判断され、何が決め手でその結論が覆ったのでしょうか。研究機関の公式発表をたどると、化石から時代と種類を読み取る作業の難しさが見えてきます。

むかわ町の化石が「恐竜の骨」から「ペンギンモドキ」に変わった理由(結論)

先に結論をまとめます。この化石は、発見場所の地層が恐竜時代である白亜紀のものとされていたため、2021年2月に「小型獣脚類の恐竜の骨」として発表されました。

ところが、その後のクリーニング(岩石を取り除く作業)で現代の鳥類に近い特徴が現れ、詳しい調査研究が行われることになります。決め手になったのは、骨の形と、地層に含まれていた花粉化石という2つの証拠でした。

  • 誤認の背景: 断片的な骨に対し、地層の年代(白亜紀)が種類を推定する手がかりになっていた
  • 決め手1(形): 脛足根骨(けいそっこんこつ)に、現生鳥類だけがもつ特徴が見つかった
  • 決め手2(年代): 地層の花粉化石が、白亜紀ではなく新生代を示した

結果として、この標本は新生代の絶滅鳥類プロトプテルム科(通称ペンギンモドキ)のものと判断されています。典拠は北海道大学・静岡大学・むかわ町穂別博物館の共同プレスリリース「むかわ町初の新生代鳥類化石の発見」(北海道大学、2025年6月25日)です。

時期 出来事
2002年 発見者の堀田良幸氏が、化石をむかわ町穂別博物館へ寄贈
2021年2月 発見場所の河川が白亜紀の地層であることから、小型獣脚類の恐竜の骨として発表
その後 クリーニングで現代の鳥類に近い特徴が現れ、北海道大学総合博物館・静岡大学・むかわ町穂別博物館が調査研究に着手
2025年6月25日 3機関の共同プレスリリースを発表
2025年6月27日 日本古生物学会2025年年会・総会で「北海道むかわ町穂別産のプロトプテルム科鳥類化石」として発表(川本一陽氏〈北海道大学大学院理学院〉・小林快次氏〈北海道大学総合博物館教授〉・Julien Legrand氏〈静岡大学理学部地球科学科助教〉)

プロトプテルム科(ペンギンモドキ)とは何者か

プロトプテルム科(Plotopteridae)は、およそ4,000万年前(始新世後期)から1,500万年前(中新世前期)にかけて、北太平洋沿岸地域に生息していた絶滅鳥類のグループです。翼をヒレのように使って潜水する姿がペンギンとよく似ているため、「ペンギンモドキ」の通称で呼ばれます。

ただし系統的にはペンギンの仲間ではありません。北海道大学のプレスリリースでは、後肢を潜水に用いるウやカツオドリと同じカツオドリ目(Suliformes)に属すると考えられています。むかわ町の標本は、体長がおよそ1メートルと推定されています。

プロトプテルム科ホッカイドルニスの復元イラスト

出典: Hokkaidornis abashiriensis recreation by Dotkamina / CC BY-SA 4.0

この標本自体は、2002年に発見者の堀田良幸氏から穂別博物館へ寄贈されたものです。寄贈から20年以上を経て、正体の解釈が大きく塗り替わったことになります。

なぜ最初は「恐竜の骨」として発表されたのか

化石の正体を決めるとき、研究者は骨そのものの形と、その骨が埋まっていた地層の年代という2つの情報を突き合わせます。むかわ町穂別の標本では、発見場所の河川が白亜紀の地層だとされていた点が強く効きました。

白亜紀は恐竜が繁栄していた時代です。断片的な骨がその地層から出てくれば、小型の獣脚類恐竜と考えるのは妥当な推論でした。しかも当時の標本はまだ岩石に覆われており、骨の細部まで観察できる状態ではありませんでした。

プレスリリースはこの経緯をこう記しています。

2021年2月には発見場所の河川が恐竜時代である白亜紀の地層であることから、小型獣脚類の恐竜の骨として発表されました。しかし、その後のクリーニング作業によって現代の鳥類に近い特徴があらわれたため、詳しい調査研究が行われることになりました。

つまりこれは、手元の情報で最も妥当な解釈を出し、新しい情報が得られたら更新するという科学の手続きが働いた例だと言えます。

何が決め手で「別の時代の鳥」だと判明したのか

決め手1|脛足根骨の「腱上橋」が示した鳥類の証拠

クリーニングが進むと、脛足根骨(すねにあたる骨)の遠位端に、溝へ橋が架かったような構造が現れました。これは「腱上橋」と呼ばれ、neornithes類(ネオルニテス類、現生の鳥類からなるグループ)に共通する共有派生形質です。共有派生形質とは、複数の種に共通してみられ、進化的に近縁であることを示す特徴のことです。

この特徴があること自体が、標本が恐竜よりも進化的に進んだ鳥類であることを示します。さらに骨盤が前方で拡大する形状で、大腿骨と脛足根骨がヘビウやウに類似していたことから、プロトプテルム科に属すると判断されました。

日本産プロトプテルム科の肩帯・三骨管の復元CG

出典: YM-G-100206 by Tatsuro Ando and Keisaku Fukata / CC BY 4.0

決め手2|花粉化石が地層の年代をひっくり返した

骨の形から導かれた結論は、白亜紀という層序学的な年代と矛盾していました。そこで研究チームは、地層に含まれる花粉化石を分析します。

検出されたのは、暁新世から中新世にかけて出現することが知られる被子植物の花粉 Proteacidites spiniformis でした。この結果から、標本も新生代(暁新世〜中新世)のものである可能性が高いと判断されています。形態と年代という独立した2つの証拠がそろったことで、結論は動かしにくいものになりました。

まだ分かっていないこと・今後の課題

この化石が正式な学名をもつ新種として査読付き論文で記載・命名されたかどうかは、2026-09-09時点で確認できていません。2025年6月の情報は日本古生物学会年会での学会発表であり、むかわ町穂別博物館が公開する関連論文リストにも、この標本を主題とした2025年の論文は見当たりませんでした(2026-09-09確認)。

プレスリリースでは既存のどの分類にも属さない可能性が示唆されていますが、新種として確定した情報ではありません。分類の表記にも幅があり、北海道大学のプレスリリースはカツオドリ目(Suliformes)としていますが、資料によってはペリカン目と記す例もあります。本記事は一次情報である北海道大学の表記に従いました。

近縁種・似た姿の生き物との比較

北海道2例目|網走のホッカイドルニス

むかわ町の標本は、同町における初の新生代鳥類化石です。北海道のプロトプテルム科としては、網走市で見つかったホッカイドルニス(Hokkaidornis abashiriensis)に次ぐ2例目の記録になります。ホッカイドルニスはSakuraiらにより2008年に記載された種で、学術データベースGBIFにも登録されています。

ペンギンとの「空似」は収斂進化

プロトプテルム科は翼をヒレ状に使って潜る点でペンギンと酷似しますが、これは系統が別なのに似た形へ行き着く収斂進化の例とされています(査読論文)。系統的にはカツオドリ科・ウ科に近縁で、ペンギン科(Spheniscidae)とは離れたグループです。

項目 プロトプテルム科 ペンギン科 ウ・カツオドリ
系統 カツオドリ目(Suliformes) ペンギン科(Spheniscidae)(プロトプテルム科とは系統的に離れる) カツオドリ目(Suliformes)
現存 絶滅(約4,000万〜1,500万年前) 現生 現生
潜水時の推進 翼をヒレ状に使う 翼をヒレ状に使う 後肢を使う
化石記録の分布 北太平洋沿岸地域

潜水するジェンツーペンギン

出典: Gentoo Penguin Swimming by Priya Venkatesh / CC BY-SA 3.0

化石と研究にゆかりのある場所

標本を収蔵しているのは、北海道勇払郡むかわ町のむかわ町穂別博物館です。ただし、この化石が常設展示されているかどうかは2026-09-09時点では情報が見当たりませんでした。訪問を考えている場合は、公式サイトで最新の展示情報を確認してください。

調査研究は北海道大学総合博物館・静岡大学・むかわ町穂別博物館の共同で進められました。北海道大学総合博物館は札幌キャンパス内にあり、大学の研究成果を公開する施設です。

まとめ

むかわ町穂別の化石が「恐竜の骨」から「新生代のペンギンモドキ」へと解釈を変えたのは、誰かが単純な間違いをしたからではありません。地層の年代しか手がかりがなかった段階の解釈が、クリーニングによって骨の細部が見えたことで更新されたのです。

決め手は、脛足根骨の腱上橋という形態の証拠と、花粉化石 Proteacidites spiniformis が示した年代の証拠でした。方向の異なる2つの証拠が同じ結論を指したとき、化石の正体は初めて確からしくなります。

一方で、新種としての正式な記載・命名は2026-09-09時点では特定できておらず、この標本の話にはまだ続きがあります。北海道大学のプレスリリースむかわ町穂別博物館の公式サイトをときどき確認して、続報を追いかけてみてください。

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