スジアラ(Plectropomus leopardus)の飼育個体
Nature

ハタとウツボはなぜ一緒に狩りをするのか|狩りの成功率が単独の約5倍に上がる仕組みを研究データから整理する

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大きな魚と細長いウツボが、サンゴ礁で並んで獲物を探す。そんな光景が紅海で記録され、研究者の注目を集めてきました。捕食者どうしが、なぜ獲物を奪い合わずに組むのでしょうか。

この記事では「ハタとウツボはなぜ一緒に狩りをするのか」という1つの問いに絞り、学術論文と水族館・データベースの公開情報をもとに答えます。この協力関係は、2026年10月11日(日)にNHK総合で放送予定の番組でも取り上げられるとされています(NHK公式番組ページ、2026-10-06時点)。

ハタとウツボはなぜ一緒に狩りをするのか(結論)

ハタとウツボが一緒に狩りをするのは、得意な狩り場が正反対で、組むと獲物の逃げ場がなくなるからです。ウツボは岩の隙間に入り込めますが、開けた水中で獲物を追うのは苦手です。ハタは開けた水中で獲物を追えますが、狭い隙間には入れません。

紅海で行われた観察研究では、ハタの狩猟成功率はウツボと協力したときに単独のおよそ5倍(1時間あたり0.19回対0.04回)に上がりました(PLOS Biology, 2006)。研究チームは、両者がそれぞれ利益を得る関係だと結論しています。

ただし、この数値は紅海の特定の場所・期間の観察結果です。ハタやウツボの全種・全海域に当てはまる値ではない点に注意してください。

なぜ一緒に狩りをするのか:役割の相補性と狩猟成功率

協力狩りを詳しく報告した代表的な研究は、2006年12月5日にPLOS Biology誌で発表されました。調査地はエジプト・ラス・モハメッド国立公園のメルサ・バレイカ東部で、2002年9月〜2004年12月に観察が行われました。

観察の内容 数値
観察したハタ 14個体(推定体長55〜100cm)
観察したウツボ 7個体(推定体長130〜200cm)
観察時間 ハタ406.4時間、ウツボ18.5時間以上
ハタの捕獲数(単独) 1時間あたり0.04回
ハタの捕獲数(ウツボと協力) 1時間あたり0.19回(約5倍)

獲物の逃げ場がなくなる仕組み

鍵は、2種の得意な場所が重ならないことです。サンゴ礁の小魚は、捕食者に追われると岩の隙間に逃げ込みます。ハタだけなら、ここで狩りは失敗に終わります。

ところがウツボがいると、隙間に逃げた獲物はウツボに追い立てられます。隙間から開けた水中へ飛び出せば、今度はハタが待っています。論文は、このように獲物がどちらへ逃げても狙われる状況を報告しています。

獲物の逃げ方 待ち受ける捕食者
岩の隙間に逃げ込む 隙間に入れるウツボ
開けた水中へ逃げる 泳いで追えるハタ

「助け合い」ではなく「得意技の組み合わせ」

研究チームは、両者の役割は固定的に分担されていないと述べています。それぞれが進化させてきた狩りのやり方が、組み合わさって成り立つ関係だという見方です。これを「副産物的相利共生(by-product mutualism)」と呼びました。

相利共生とは、異なる種が互いに利益を得る関係のことです。「副産物的」とは、相手のために我慢や犠牲を払うのではなく、自分の利益を追った結果として相手も得をする、という意味合いです。身近な例では、掃除魚がサンゴ礁の魚の体表についた寄生虫を食べる関係も同じ考え方で説明されます。掃除魚は餌を得られ、相手の魚は寄生虫を取ってもらえる。どちらも相手のために我慢しているわけではなく、自分の利益を追った結果として両方が得をしています。

ハタとウツボの基本情報

研究で協力狩りが詳しく調べられたのは、ハタ科のローヴィングコーラルグルーパーと、ウツボ科のジャイアントモレイ(和名ドクウツボ)です。まずこの2種の基本情報を整理します(後半で登場するスジアラの学名・分類は次の項で触れます)。

項目 ローヴィングコーラルグルーパー ドクウツボ(ジャイアントモレイ)
学名 Plectropomus pessuliferus Gymnothorax javanicus
分類 スズキ目ハタ科 Plectropomus属 ウナギ目ウツボ科 Gymnothorax属
最大全長 120cm 300cm(体重30kg)
生息水深 25〜147m 0〜50m
主な分布 紅海、モルディブ、スリランカ、フィジーなどインド太平洋のサンゴ礁 紅海・東アフリカから太平洋の島々、北は琉球列島・ハワイまで
本記事での登場 2006年・2013年の紅海の研究 2006年の研究の協力相手

出典: FishBase(P. pessuliferus)、FishBase(G. javanicus)

ローヴィングコーラルグルーパーは肉食性で、FishBaseでは栄養段階(食物連鎖の中での位置)が4.2とされる上位の捕食者です。ドクウツボは魚類を主食とし、時に甲殻類も食べます。地域によっては体内にシガテラ毒(食中毒の原因になる毒)を持つことがあると、鳥羽水族館などが紹介しています。

「ハタ」は1種の名前ではない

日本語の「ハタ」は、ハタ科の魚をまとめて呼ぶ言葉です。特定の1種を指す名前ではありません。ダイビングや水族館の紹介では、上の表の2種をまとめて「ハタ」「グルーパー」と呼ぶこともあります。

ローヴィングコーラルグルーパーとスジアラ(コーラルトラウト、学名Plectropomus leopardus)は同じPlectropomus属ですが、別の種です。この記事では、どの研究がどの種を対象にしたのかを、学名とあわせて書き分けます。

ハタはどうやってウツボを呼ぶのか:頭振り信号とヘッドスタンド信号

協力狩りは、ハタからの「合図」で始まることが多いと報告されています。2006年の研究では、次の2種類の合図が記録されました。

合図 動き 報告されている働き
頭振り信号 獲物が隠れた隙間の前で、毎秒3〜6回の速さで頭を振る ウツボを呼び寄せる
ヘッドスタンド信号 獲物が隠れた隙間の上で逆立ちしながら頭を振る ウツボを呼び寄せる

このヘッドスタンド信号について、ハタが意図的に合図しているのか、ウツボが単にその動きに反応しているだけなのかは、研究者の間でも説が分かれています。後の「分かっていないこと・説が分かれていること」で両方の立場を紹介します。

観察記録の58%では、合図のあとにウツボが隠れ家から出てきて、共同の狩りが始まりました。

2013年には、Alexander Vail、Andrea Manica、Redouan Bshary(ケンブリッジ大学・ヌーシャテル大学)がNature Communications誌で研究を発表しました。紅海のローヴィングコーラルグルーパー(亜種 P. pessuliferus marisrubri)と、グレートバリアリーフのスジアラの両方が、ヘッドスタンド信号を使うことを187時間の観察で報告しています。

この研究で合図を向けられた相手は、ウツボだけではありませんでした。ナポレオンフィッシュやタコにも同じ合図が向けられていたとされます(National Geographic)。

スジアラは「頼れる相棒」を学習して選ぶ

合図を送るだけでなく、相手を選ぶ力もあるのか。これを確かめたのが、同じ研究チームが2014年9月8日にCurrent Biology誌で発表した実験です。

実験では、スジアラを飼育下に置き、2種類の模型ウツボを用意しました。

模型 動き
役に立つ模型ウツボ 合図に応じて正しく動く
役に立たない模型ウツボ 合図とは反対方向へ泳ぐ

6日間・48試行の実験で、スジアラは役に立つ模型を見分けるようになり、そちらに協力を求めるようになりました。協力相手の「当たり外れ」を経験から学べる、ということになります。

スジアラ(Plectropomus leopardus)の飼育個体

出典: 沖縄美ら海水族館

分かっていないこと・説が分かれていること

ヘッドスタンド信号をどう解釈するかには、2つの立場があります。

  • 意図的な合図(参照的ジェスチャー)とみる説: 2013年の研究チームは、信号が「対象に向けられる」「それ自体に獲物を捕らえる効果がない」「相手から自発的な反応を引き出す」などの条件を満たすと論じました。合図がうまくいかないと別の手を試すことも、意図があることの根拠に挙げています(phys.org)
  • 学習された刺激にすぎないとみる説: ウツボにとって、ハタの逆立ちは「狩りがうまくいく合図」として条件づけられているだけ、という説明です。研究チーム自身もこの可能性を検討しています

研究チームは前者を支持していますが、第三者による独立した再検証や反論は、リサーチの範囲では確認できませんでした。現時点では「意図的なジェスチャーだという説がある」と受け止めるのが妥当です。

また、成功率約5倍や58%といった数値は、紅海メルサ・バレイカの特定の個体群を、特定の期間に観察したものです。ほかの海域やほかのハタ科・ウツボ科の魚で同じ結果になるかは、この研究からは言えません。

近縁種・ほかの協力相手との比較

研究で扱われた組み合わせを並べると、次のようになります。

研究 合図を出す側 協力相手 調べ方
2006年 PLOS Biology ローヴィングコーラルグルーパー(紅海) ドクウツボ 野外観察
2013年 Nature Communications ローヴィングコーラルグルーパー(紅海)、スジアラ(グレートバリアリーフ) ウツボ、ナポレオンフィッシュ、タコなど 野外観察(187時間)
2014年 Current Biology スジアラ 模型ウツボ 飼育下の実験

同じPlectropomus属の別々の種で、海域も離れているのに、同じヘッドスタンド信号が見られた点が興味深いところです。一方で、相手がウツボ以外でも合図を使うことから、「ハタとウツボだけの特別な関係」とは限らないことも分かります。

実際に見られる場所

協力狩りそのものは野外で観察された行動で、水族館で再現展示されているわけではありません。ただし、登場する魚は国内の水族館でも見られます。

展示の内容は入れ替わることがあります。訪れる前に、各水族館の公式サイトで最新の展示状況を確認してください。

まとめ

ハタとウツボが一緒に狩りをする理由を、研究データから整理しました。

  • 岩の隙間に入れるウツボと、開けた水中で追えるハタが組むと、獲物の逃げ場がなくなる
  • 紅海の観察では、協力時のハタの狩猟成功率は単独の約5倍だった(特定の個体群・期間の結果)
  • ハタは頭振りや逆立ちの合図でウツボを誘い、記録の58%で共同の狩りが始まった
  • スジアラは実験で「役に立つ相棒」を学習して選ぶようになった
  • 逆立ちの合図が意図的なジェスチャーかどうかは、説が分かれている

テレビや水族館でハタやウツボを見かけたら、隣にいる魚との距離や、頭の動きに目を向けてみてください。この協力関係は、2026年10月11日(日)にNHK総合で放送予定の番組でも取り上げられるとされています。研究の詳細は、本文中でリンクした論文や公式解説から確かめられます。

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