スペインの教会の塔に複数のシュバシコウの巣が並ぶ様子(写真はアルファロの教会ではなく、同様の営巣が見られる別の教会の例)
Nature

シュバシコウはなぜ一つの屋根に100もの巣を作って集まるのか|コロニー形成の理由を研究データから整理する

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結論

1棟の屋根に、巣がおよそ100個――そう聞いて、その光景をすぐに思い浮かべられる人は多くないかもしれません。シュバシコウ(学名 Ciconia ciconia)は、まさにそんな光景で知られる大型の鳥です。スペイン・ラ・リオハ州アルファロ市のサン・ミゲル参事会教会はその代表例で、アルファロ市の公式サイトによれば、この教会には通常100を超えるつがいが営巣し、総個体数が500羽を超えることもあるとされています(2026年8月26日確認)。

なぜ1棟に集中するのか。研究データと公的情報から読み取れる答えは、次の3つの条件が同じ場所で重なっているから、というものです。

  1. 巣を載せられる足場が1棟に大量にある(庇・尖塔・屋根・隙間・窓辺といった教会建築の凹凸)
  2. 年間を通じて安定した食料源が近い(ゴミ処分場・湿地・農地までの距離が、コロニー〔巣が集まってできる集団営巣地のこと〕の規模と関係する)
  3. 人が巣を撤去せず受け入れている(撤去されれば同じ場所に積み上がっていかない)

つまり「シュバシコウは教会が好き」なのではなく、教会という構造物がたまたま3条件を同時に満たしているために結果として密集する、という説明が現在の研究データとは整合的です。以下、それぞれの根拠を順に見ていきます。

スペインの教会の塔に複数のシュバシコウの巣が並ぶ様子(写真はアルファロの教会ではなく、同様の営巣が見られる別の教会の例)

出典: 000091 – Cigüeñas by M.Peinado / CC BY 2.0 (Flickrより)

シュバシコウとはどんな鳥か

シュバシコウは鳥綱コウノトリ目コウノトリ科コウノトリ属に分類される大型の水鳥です。白い体に黒い風切羽、赤い嘴と脚という配色で、和名の「朱嘴鸛(しゅばしこう)」は赤い嘴に由来します。基本情報は次のとおりです。

項目 内容
和名/学名 シュバシコウ/Ciconia ciconia
分類 コウノトリ目コウノトリ科コウノトリ属
体長 約100〜115cm
体重 平均約8,000g(範囲5,000〜10,000g、オスがやや大きい)
繁殖分布 ヨーロッパ、北アフリカ、小アジア、中東
越冬地 熱帯アフリカ、中東、インド亜大陸
食性 昆虫、サソリ、クモ、カエル、魚類、げっ歯類、トカゲ、ヘビなど
繁殖 春(3〜4月)に3〜6卵、雌雄交代で約33〜35日抱卵

出典: Animal Diversity Web(ミシガン大学)福岡市動物園(2026年8月26日確認)

食性の幅広さは後の話につながる重要な特徴です。湿潤な年は水辺の動物を、乾燥した年は昆虫やネズミを主に食べるというように、その年の環境に応じて獲物を切り替えます。なお翼開長は情報源によって数値に幅があり(研究機関の記載と動物園の記載で差があります)、ここでは単一の値を断定しません。

シュバシコウの成鳥。白い体、黒い風切羽、赤い嘴と脚が特徴

出典: White Stork (Ciconia ciconia), Zajki meadows, Eastern Poland by Frank Vassen / CC BY 2.0 (Flickrより)

日本の「コウノトリ」とは別種

兵庫県豊岡市などで知られる日本の「コウノトリ」は Ciconia boyciana で、シュバシコウとは別種です。かつては C. ciconia の亜種(C. c. boyciana)として扱われていた歴史があるとされ、名前が混同されやすい組み合わせです。この記事で扱う密集営巣はヨーロッパのシュバシコウで観察されている現象であり、日本のコウノトリの行動としてそのまま読み替えることはできません。

なぜ一つの屋根に100もの巣が集まるのか

教会建築が「巣の土台」を大量に供給する

アルファロ市の公式サイトは、シュバシコウが利用する場所として「cornisas y pináculos, tejados y oquedades, repisas y ventanas」(庇や尖塔、屋根や隙間、棚や窓辺)を挙げています。大型の鳥が重い巣材を積み上げるには、水平で崩れにくい足場が要ります。教会建築は装飾的な凹凸が多く、そうした足場が1棟のなかに何十か所も並んでいる、という点が普通の建物と大きく違います。

食料資源までの距離がコロニーの規模を左右する

営巣場所の選び方については、スペインなどで複数の研究が行われています。共通して浮かび上がるのは「安定した餌場までの近さ」という軸です。

調査地 調査時期 報告されている内容
スペイン・マドリード州 1984年・2004年・2021年 営巣地から最寄りのゴミ処分場までの平均距離が17.51km→15.10km→14.06kmと短縮し、処分場近傍の営巣密度が有意に(=偶然のばらつきでは説明できないほどはっきりと)増加
スペイン・ナバラ州 2018年 処分場が近いほど、また水域に近い乾燥農地・草地が卓越する環境ほどコロニーが大きい傾向
アルジェリア北部(88コロニー) 2002〜2005年 処分場に近いコロニーほど繁殖成功率が高い傾向。ただしコロニー規模との交互作用(=コロニーの大きさによって、処分場までの距離の効き方自体が変わること)あり

マドリード州の研究者は、営巣地の選定は処分場への近さで説明でき、伝統的な生息地の質とは独立に移動していると指摘しています(López-García & Aguirre (2023), Ornithological Applications)。「餌場までの近さがコロニーの規模を左右する」という同様の傾向は、ナバラ州やアルジェリア北部など他地域の調査でも報告されています(Arizaga et al. (2022)Journal of Ornithology)。

アルファロの教会も、こうした条件から外れた場所にあるわけではありません。足場が豊富でも、周囲に餌場がなければ100前後のつがいを養えない、という順序で考えるほうが現象を説明しやすいのです。

人が巣を撤去しないこと

3つ目は人の側の条件です。アルファロでは巣が撤去されずに残り、市が観光資源として紹介しています。シュバシコウの巣は同じ場所で何年も使われて大きくなることがあり、撤去されなければ巣は残り、翌年また使われます。100という数は一夜で成立したものではなく、撤去されない年月の積み重ねの結果と見るのが自然です。

巣の中のシュバシコウ。親鳥と若鳥が同じ巣におり、巣は年を追って積み上げられていく

出典: Family of White storks by Oleg Dubyna / CC BY-SA 2.0 (Flickrより)

分かっていないこと・説が分かれていること

「なぜ集まるのか」に対して、密集そのものにどんな意味があるのかは決着していません。研究データからは、少なくとも2つの見方が並びます。

  • 説A:資源の集中による受動的な分布 — コロニーの規模や立地は、営巣に適した構造物と安定した食料源への近さでほぼ説明でき、社会的な結びつきそのものが目的ではないとする見方。マドリード州とナバラ州の研究が根拠になります。
  • 説B:コロニーの大きさが繁殖成功に影響するという見方 — 近くに安定した食料があればコロニーが大きくても繁殖成功率は上がる一方、天然の獲物に頼る乾燥した年には、大きなコロニーほど獲物を早く枯渇させうるとする見方。アルジェリア北部の88コロニー調査(Journal of Ornithology)で、コロニー規模と処分場までの距離に有意な交互作用が確認されています。

スペインの鐘楼に集まるシュバシコウの巣(マンサナーレス・エル・レアルの例)。この密集が資源条件だけで説明できるのか、コロニーの大きさ自体が繁殖に影響するのかは、まだ研究の途上にある

出典: Storks nesting by Marco Chiesa / CC BY 2.0 (Flickrより)

この2つは対立する主張というより、分布の説明と繁殖成功への影響という別の側面を見ています。種全体に共通する「コロニー形成の適応的な意義」が確定しているわけではない、というのが2026年8月26日時点での実情です。

文化的な説明も広く流布しています。「ヨーロッパでは幸運を運ぶ鳥とされ、そのため人に慣れて教会や町中に住むようになった」という言い伝えは旅行メディアなどでよく見かけますが、これは研究機関による生態学的な検証が確認できる話ではありません。言い伝えとして楽しむ分にはよいものの、営巣行動の説明としては上記のデータとは区別して読む必要があります。

同様に、アルファロのコロニーを「世界最大」と紹介する記述や、巣の重量を「数十kg以上」とする数値も旅行メディアで見られますが、学術的な国際比較や定量データとしては確認できませんでした。本記事では「単一の建造物としては例外的に大規模」という表現にとどめています。

同じ種でも密集しない個体群がある

密集営巣がシュバシコウという種の固有の性質ではないことは、他地域の個体群を見るとよく分かります。ポーランド西部(旧レシュノ県)で2006〜2024年に行われた個体群調査では、対象の個体群はなわばりを持って単独で営巣する性質(solitary nesting)を示しました。年配の個体ほど巣の面積が大きく、過去の繁殖成功率が高い巣を選ぶ傾向も報告されています(Frontiers in Zoology)。

繁殖ペアは通常、巣を中心に半径およそ2kmのなわばりを持つとされます。この性質が優先される場所では巣は散らばり、逆にアルファロのように足場と餌場が一点に集中する場所では、なわばりを詰めても割に合う——そう考えると、地域ごとの見え方の違いが理解しやすくなります。密集は種の癖ではなく、条件への応答というわけです。

飛翔するシュバシコウ。採食場所と巣の間を往復する

出典: Stork #3 – In flight by Jinterwas / CC BY 2.0 (Flickrより)

シュバシコウを実際に見られる場所

日本国内では動物園で観察できます。福岡市動物園鹿児島市平川動物公園は公式サイトでシュバシコウを紹介しています。飼育している個体の状況や展示場所は変わることがあるため、来園前に各園の公式サイトで最新情報を確認してください(2026年8月26日時点の情報)。

シュバシコウの成鳥(クローズアップ)。赤い嘴が特徴的

出典: BIRDS IN WHITE – OCELLS EN BLANC by Ferran Pestaña / CC BY-SA 2.0 (Flickrより)

密集営巣そのものを見るなら、現地はスペイン・ラ・リオハ州アルファロ市のサン・ミゲル参事会教会です。巣が使われるのは繁殖期が中心で、時期によって見え方が変わります。訪問を計画する場合はアルファロ市の公式観光ページで時期と見学条件を確認するのが確実です。

まとめ

シュバシコウが1つの屋根に100もの巣を集めるのは、巣を載せられる足場が1棟に大量にあること、安定した食料源が近いこと、人が巣を撤去しないことの3条件が重なった結果と考えられます。一方で、密集そのものが繁殖にとってどんな意味を持つのかは、資源の集中による受動的な分布とする見方と、コロニーの大きさが繁殖成功を左右するとする見方が並んでおり、決着していません。

次に写真や映像でこの鳥を見るときは、巣がどこに載っているか(庇か、尖塔か、煙突か)と、周囲にどんな環境が広がっているかに注目してみてください。足場と餌場という2つの条件が、そのまま画面の中に写り込んでいるはずです。動物園で実物を見る場合は、来園前に各園の公式サイトで展示状況を確認しておくとよいでしょう。

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