ブラジル・クリチバ市の都市公園にいるカピバラ
Nature

【研究で整理】カピバラはなぜ都会に住みつけるのか|5つの要因と起きている問題

住宅街の芝生で草を食べ、公園の池のほとりで休む野生のカピバラ。そんな姿を見て「野生動物なのに、なぜ人の多い街で暮らせるのか」と気になった人もいるでしょう。

この記事では、アルゼンチンとブラジルの研究機関・論文の公開情報をもとに、カピバラが都会に住みつく理由と、それによって起きている問題を整理します。

ここで扱うのはすべて南米の事例です。日本で野生のカピバラが都市に定着している事例は、今回の調査では確認できませんでした。

ブラジル・クリチバ市の都市公園にいるカピバラ

クリチバ市の都市公園(Parque Barigui)のカピバラ(本文の研究の調査地ではありません)。出典: A capivara – Parque Barigui – Curitiba (PR) by Eliane Kobayakawa / CC BY 2.0

先に、確かなことと未確定なことを分けておきます。

  • 確かなこと:カピバラは水辺の動物で、水・草・隠れ場所がそろい、人に守られる場所に定着している例が報告されている
  • 未確定なこと:捕食者の少なさや人による保護など、どの要因がどれだけ効いているか

結論:カピバラはなぜ都会や住宅街に住みつけるのか

カピバラが街に住む理由は、「都会が好き」だからではありません。カピバラはもともと、水辺の湿地や草地で暮らす動物です。

都市の湖・水路・芝生が水と草と隠れ場所をそろえ、人に見守られて狩られにくく、捕食者も少ない場所では定着しやすい、と研究者は説明しています。

ただし、どの要因がどれだけ効いているかは地域によって異なり、確定していません。もともとの生息地に住宅地ができた例もあります。

要因 都市にあるもの 根拠の種類 主な地域
水と隠れ場所 人工湖・水路・プール 論文(事例研究) アルゼンチン
草 水をまく芝生・観賞植物、農地の作物 論文、研究者の発言 アルゼンチン、ブラジル
人による保護 人が見守り、狩られにくい 修士論文(1都市・1年) ブラジル
捕食者の少なさ ジャガーなどの捕食者が少ない 専門家の見解、文献の整理(現地で未検証) アルゼンチン、ブラジル
もともとの生息域 湿地を造成した住宅地 研究機関の見解 アルゼンチン

起きている問題として挙がっているのは、ブラジル紅斑熱を運ぶダニの宿主になること、交通事故やペット・庭の被害です。人への感染はダニに咬まれて起こるもので、カピバラが人に直接うつすのではありません。

そもそもカピバラはどんな動物か

カピバラ(学名 Hydrochoerus hydrochaeris)は、ブラジル・ベネズエラ・パラグアイ・ウルグアイ・アルゼンチン北東部など、南米東部に分布するげっ歯類です(Mammal Diversity Database)。

げっ歯類で最大とされ、体長は1mを超え、体重は数十kgになります。数値は資料によって幅があります(コトバンク)。

目・耳・鼻が頭の上にあり、体を水に沈めたまま周りを見張れます。水辺を好む半水生の草食動物で、主に草や水草を食べます(Marwell Zoo)。

IUCNレッドリストでは軽度懸念(Least Concern)と評価されています(IUCN、2016年の評価。2026-10-13時点の情報)。評価は見直されることがあるため、公式ページで確認してください。

ブラジル・サンパウロ州チエテ川の保護区にいるカピバラの群れ

サンパウロ州チエテ川の保護区にいる群れ(市街地の公園ではなく、河畔の保護区)。

出典: Capivara(Hydrochoerus hydrochaeris).jpg by Clodomiro Esteves Junior / CC BY-SA 4.0

都市がカピバラに与えているもの

結論の表に挙げた要因を、根拠ごとに見ていきます。

水と隠れ場所:住宅地の人工湖と水路

この小節で分かるのは、造成された住宅地でも水と隠れ場所が得られることです。

アルゼンチンのブエノスアイレス郊外ティグレにある住宅地ノルデルタは、パラナ・デルタの湿地を造成して造られました。造成で、生息地は大きく変わりました。

それでも、中央の人工湖(180ha超・深さ20m超)や水路、プールが、水と隠れ場所、体温調節の場になっていると論文は整理しています(Ríos & Ruete、2025)。

ただし、この論文は人文・建築系の事例研究で、カピバラの生態を数値で測った研究ではありません。

いつでも食べられる草:芝生と農地

この小節の前半は住宅地の芝、後半のサトウキビは市街地ではなく農地の話です。

同じ論文によると、ノルデルタでは芝や観賞植物に年間を通じて水がまかれ、種がまかれています。これがカピバラの食べ物になっています。

ブラジル・サンパウロ州の内陸については、サンパウロ大学獣医学部のLabruna氏が、増加の主な理由を説明しています。

挙げているのは、河畔林の再生、サトウキビ栽培の拡大、狩猟の制限です(Pesquisa FAPESP、2009年)。

「森に身を隠し、サトウキビを食べる」という説明で、サトウキビ畑周辺の密度は自然環境(パンタナールなど)の約60倍とされます。ただし市街地ではなく農地の話で、数値も2009年時点のものです。

人に守られる場所

この小節で分かるのは、人の存在が定着を後押ししたという調査結果です。

ブラジル・ミナスジェライス州のウベルランジア市では、2008年に市街地4か所と自然保護区1か所を月1回調べた研究があります(ウベルランジアの調査、連邦大学の修士論文、2010年)。

市街地の群れは自然地域より大きく、食べ物と水に加え、昼夜を通じて人が見守る場所に定着していました。著者は、人による保護が定着と増加の主な要因だと結論づけています。

ただし1都市・1年の調査で、ほかの都市にそのまま当てはめることはできません。

捕食者の少なさと、人への慣れ

この小節で分かるのは、有力な見方ではあるものの、まだ検証されていないということです。

ブラジル・フロリアノポリスの論文は文献を整理し、都市にカピバラがいる要因として、ジャガーなど捕食者の減少と、人への慣れ(逃げる反応が弱まること)を挙げています(Nunes Sayn ほか、2025)。

ノルデルタについても、Ríos & Ruete(2025)が専門家の見解として捕食者の不在を挙げています。

サンパウロ州内陸の農地にはジャガー・アナコンダ・カイマンなどがいない、とするLabruna氏の発言(2009年)もあります。

ただし、捕食者の影響を現地で検証した研究は、ここで挙げた資料の中にはありません。捕食者の少なさは、まだ検証が足りない説として受け止めるのが妥当です。

ブラジル・クリチバ市の都市公園で、散歩する人のそばの道を横切るカピバラ

クリチバ市の都市公園(Parque Náutico do Iguaçu)で、散歩する人のそばの道を横切るカピバラ。2011年秋の撮影で、撮影者は「人を恐れず、ゆっくり道を横切る」と説明しています。本文の研究の調査地ではありません。

出典: Capivara e caminhante Parque Náutico do Iguaçu Outono 2011 Curitiba by Angeloleithold / CC BY 3.0

「新しく街に来た」とは限らない

この小節で分かるのは、街のほうがカピバラの暮らす場所に広がった例があることです。

ノルデルタについては、アルゼンチンの研究機関CONICETとブエノスアイレス大学の研究者3人が、2021年9月8日にアルゼンチン哺乳類学会(SAREM)の支持を得て見解を公表しています(CONICET)。

それによると、ノルデルタはカピバラ本来の分布域であるパラナ川下流域の河畔低地の中にあり、本種に最も適した生息地の一つです。

研究者らは、カピバラは住宅地の造成前からこの一帯に生息しており、当時は見かける頻度が高くなかった可能性があるとも述べています。

少なくともノルデルタは、カピバラが新しく街にやって来たとは言い切れない例です。

都会のカピバラはどう暮らしているのか

ブラジル・カンポグランデの4つの公園で、9つの群れをGPSで追跡した研究があります(Serra-Medeiros ほか、2021)。

要点は、人が多い日ほど夜に活動し、人の多い場所を避けるということです。

来園者が多い日、カピバラは活動の始まりが遅れて夜の活動が増えました。昼間は人のいる都市部を避け、水辺の草地や森林を選ぶようになったのです。

人の手が入った環境で夜行性が強まることは、別の研究(Lopes ほか、2021)でも報告されています。

カピバラは人に慣れて暮らしているように見えても、人との距離を調整しているようです。行動圏の広さをめぐる研究どうしの違いは、「分かっていないこと」で整理します。

カピバラが都会にいると何が起きるのか

起きている問題は大きく、ダニを介した感染症、交通事故やペット・庭の被害の2つです。

ダニとブラジル紅斑熱

ブラジル紅斑熱は、Rickettsia rickettsii という菌による感染症です。

カピバラはこの菌を運ぶダニ(Amblyomma sculptum)の主要な宿主で、ダニに菌を渡す「増幅宿主」として働くと説明されています(Pesquisa FAPESP、2009年)。

増幅宿主とは、体内で菌が増え、血を吸ったダニに菌を渡す動物のことです。カピバラ自身は症状が出ません。

Labruna氏によると、感染は約10日続き、その間に血を吸ったダニの20〜35%に菌が渡りうるといいます(実験で感染させた4頭での結果。2009年時点の説明)。

人が感染するのはダニに咬まれたときで、カピバラが人に直接うつすのではありません。

ウベルランジアの調査でも、採集したダニ(Amblyomma属2種)の79%は、カピバラが最も多い地点で採れました。

都市公園のカピバラについては、カンポグランデで2017年5月〜2018年8月に17頭を調べた研究があります(Campos ほか、2022)。

その結果、紅斑熱を起こす仲間の菌への抗体が見つかったのは17頭中15頭(88.2%)でした。ブラジル紅斑熱の菌そのものへの抗体は11頭(64.7%)です。

つまり、過去に菌にさらされた個体が多かったということです。いま感染しているとは限りません。

調査は1公園・17頭と小規模で、ダニから菌は検出されていません。近縁の菌と見分けにくい可能性も、著者自身が記しています。

そのうえで著者は、人と空間を共有する都市公園にリスクがありうると指摘し、人・動物・環境の健康をまとめて見る「One Health」の考え方での監視を勧めています。

交通事故・ペット・庭の被害

フロリアノポリスで住民1,505人が回答した調査では、車との衝突や轢死(特に夕方のピーク時)、ペットとのトラブル、庭や作物の被害、糞、航行上の問題が懸念として挙がりました(Nunes Sayn ほか、2025)。

ただし、回答は自分から応じた人によるもので、無作為に選んだ調査ではありません。住民の意識を聞いたもので、事故の件数や個体数の増加を示すものでもありません。

また同市では、著者の知る限りブラジル紅斑熱の報告はないとされています。

ノルデルタの「約1,000%増」の出どころ

ノルデルタでは、カピバラが2014〜2021年に「約1,000%」増えたという数字があります。

ただしこの数字は住民団体(Asociación Vecinal Nordelta)の刊行物に由来し、学術的な調査結果ではないと論文が明記しています(Ríos & Ruete、2025)。

分かっていないこと|都市で増えた理由の諸説

都市でカピバラが目立つようになった主な理由については、見方が分かれています。次の3つの説は互いに排他的ではなく、地域ごとに寄与の大きさが違う可能性があります。

説 主な根拠 注意点
A:捕食者の減少 ノルデルタについての専門家の見解(Ríos & Ruete、2025)、フロリアノポリスの論文の文献整理(2025年) 現地での検証はされていない
B:食べ物・水・人による保護 ウベルランジアの調査(2010年) 1都市・1年の調査
C:見かけの増加 CONICETの見解(2021年)。コロナ禍で人の往来が減り、パラナ川の低水位・干ばつ・デルタの火災も重なって、目撃が増えた可能性 推測を含み、断定していない。捕食者には触れていない

どれが最も大きいかは、定量的には確かめられていません。

もう一つ、都市で行動圏(ふだん動き回る範囲)が広がるのか狭まるのかも、研究によって結果が分かれています。

研究 方法 行動圏の結果
Serra-Medeiros ほか(2021) カンポグランデの都市公園で9群を追跡し、過去の野生個体の研究と比べた 都市のほうが広い
Lopes ほか(2021) 人の手が入った環境6か所と自然環境2か所で追跡して比べた 自然環境のほうが2.43倍広い

Serra-Medeiros ほかの著者は、水辺の草地と森林が混じる環境が、都市でも広い行動圏を保たせていると述べています。調査地も比較の相手も違うため、どちらが正しいとは決められません。

対策はどこまで進んでいるのか

先に言えば、効果が確かめられた対策はまだ少なく、以下は研究者の提案や住民の意識が中心です。

CONICETの研究者らはノルデルタについて、標識・カメラ・減速帯の設置、私有地の周りの柵、水辺に草を食べさせる区域を設けることを挙げています。

個体を別の場所へ移す「移送」は、最も複雑で費用のかかる方法の一つだとしています。個体の健康や個体群のバランスを考えずに行うのは適切でないとし、監視と管理を続ける必要があるとしています。

サンパウロ州の農地について、Labruna氏は2009年の時点で、個体を殺してもメスがより多くの子を産むため根本的な解決にならないと述べています。

同氏が短期策として挙げたのは、サトウキビ畑と河畔林の間に柵を設け、食べ物に近づけなくする方法です。

フロリアノポリスの調査では、リスクの情報を伝えると個体数管理への賛成は増えましたが、殺処分への支持は低いままでした。著者は教育・不妊化・生息地の改変といった殺さない方法を支持しています。

ただし著者は、その費用や実現性を評価していません。ここで紹介したのは研究者の提案や住民の意識で、対策の効果を測った結果ではありません。

まとめ

  • 「なぜ」への一言の答えは、都会が好きなのではなく、暮らしに必要な条件が街の中にそろっていたからです
  • カピバラは水辺の動物で、水・草・隠れ場所がそろい、人に見守られて狩られにくい都市の湖や公園では定着しやすいと説明されています
  • ノルデルタのように、もともとの生息地に住宅地ができた例もあります
  • 起きている問題は、ブラジル紅斑熱を運ぶダニの宿主になることと、交通事故・ペット・庭の被害です。人への感染はダニの咬傷によるものです
  • 捕食者の少なさ、人による保護、見かけの増加のどれが最も効いているかは、確定していません

南米の事例は、日本の身近な水辺にも通じる見方を教えてくれます。池や川で野生動物を見かけたら、水・食べ物・隠れ場所・天敵の少なさがそろっているかに注目してみてください。その場所で暮らせる理由を考える手がかりになります。

研究の中身が気になったら、本文のリンクから研究機関の解説や論文を読んでみてください。

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