【2026年10月時点】セキュリティインシデントの現状と傾向:日本と世界の主な事例、個人と企業の対策5つ
「大手企業の出荷がランサムウェアで止まった」「証券口座が乗っ取られた」。サイバー攻撃のニュースは続いていますが、全体像はつかみにくいものです。
この記事では、2025年9月〜2026年9月に報じられた日本と世界の主なセキュリティインシデントを攻撃の種類別に整理し、傾向と、個人・企業が今日から取れる対策をまとめます(2026-10-15時点の情報)。
結論:2026年のサイバー攻撃の傾向と、個人・企業がまず取るべき対策
2026年のセキュリティインシデントから見える要点は3つです。
- ランサムウェア(データを人質に金銭を要求するウイルス)の被害が過去最多:国内の被害報告は2026年上半期に123件で、半期として過去最多と報じられました。
- 入口は「盗まれたパスワード」から「更新されていない弱点」へ:脆弱性(ソフトや機器の弱点)の悪用が、侵害の起点の31%で1位になりました(Verizonの2026年版報告)。
- 委託先・取引先から入られる:アスクルでは、委託先のアカウントが侵入経路と推定されています。
個人の対策の第一歩は多要素認証(パスワードに加えてスマホでの確認などを求める仕組み)です。
使えるサービスでは、パスキーを選びます。パスキーは、パスワードの代わりに指紋や顔認証でログインする仕組みで、偽サイトに情報を入力させる手口に強いとされます。
企業は、管理者と委託先のアカウントの多要素認証とバックアップの確認から始めるのが、2025〜2026年の被害の傾向に合っています。
日本の主なセキュリティインシデント(2025年9月〜2026年9月)
2025年秋は、大手企業の受注や出荷がランサムウェアで止まる事案が続きました。以下は各社の発表を報じた記事に基づくため、詳細は各社の公式発表で確認してください。

アサヒグループHD:ランサムウェアで受注・出荷が停止(2025年9月)
アサヒグループホールディングスでは2025年9月29日、ランサムウェア攻撃でシステム障害が起き、受注と出荷が止まりました(秋田魁新報)。
同社は2025年11月27日、問い合わせをした人152.5万件などを含む個人情報191万4千件が漏えいした恐れがあると発表しました(AdverTimes)。攻撃者は障害の約10日前に侵入していたとされます。
「Qilin」を名乗るグループが犯行声明を出したと報じられていますが、攻撃者側の主張の段階です(ScanNetSecurity)。
アスクル:多要素認証のない委託先アカウントから侵入と推定(2025年10月)
アスクルは2025年10月19日、ランサムウェアによるシステム障害を発表し、受注・出荷業務を止めました。2025年12月12日時点で、事業所向け約59万件、個人向け約13.2万件などの流出を確認しています(Impress Watch)。
侵入経路は、多要素認証を適用していなかった業務委託先の管理者アカウントのIDとパスワードの不正利用と推定されています。ログが消去されており、完全な究明は難しいとされます。
同社は「身代金の支払いなど、いかなる交渉も行なっていない」と説明しています。全商品が購入可能になったのは2026年1月22日付と報じられ、発生から約3か月かかりました(物流専門メディアの報道)。
村田製作所:約8.8万件の個人情報が漏えいした可能性(2026年2月認識)
村田製作所は2026年2月28日に不正アクセスの可能性を認識し、外部の専門機関と調査しました。
2026年4月27日の第3報で、従業員・関係者と社外関係者の計約8.8万件の個人情報が漏えいした可能性があると発表しています(ScanNetSecurity)。
再発防止策には、認証方式と権限管理の強化、監視の拡充、外部専門機関による定期監査を挙げました。7月13日には、グループ会社の自動車保険の顧客の個人情報の一部も漏えいしたと発表されています(ScanNetSecurity)。
統計で見る日本の現状
警察庁の数字は、警察庁の公表資料などを報じた記事で確認したものです。
表の見どころは3つです。上半期は116件から123件へと7件増え、半期の過去最多を更新しました。2025年の被害の約6割は中小企業、約4割は製造業でした。規模や業種を問わず狙われています。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| ランサムウェア被害報告(2026年上半期) | 123件(半期で過去最多) |
| ランサムウェア被害報告(2025年上半期) | 116件(当時の半期最多) |
| ランサムウェア被害報告(2025年通年) | 226件。うち中小企業143件(被害の約6割)、製造業91件(被害の約4割) |
| 復旧費用が1,000万円以上だった被害組織(2025年) | 5割超 |
| 1か月未満で復旧できた被害組織(2025年) | 5割強 |
| フィッシング報告件数(2025年) | 245万4,297件(前年比42.9%増、過去最多) |
| ネットバンキング不正送金(2025年) | 約4,700件・約100億円超(手口の約9割がフィッシング) |
出典:ScanNetSecurity、@IT(2026年上半期)、@IT(2025年)、Web担当者Forum
証券口座の乗っ取りも相次ぎ、金融庁の月次発表では2025年1〜7月の不正取引が8,111件、売買額が合計6,205億円でした。
売買額は被害額ではなく、不正に行われた取引の金額です(マネーフォワードの記事)。
主な原因は、証券会社を装ったフィッシングや、インフォスティーラー(情報を盗むマルウェア)によるログイン情報の窃取とされます(ntt.comの解説記事)。
世界の主なセキュリティインシデント(2025年9月〜2026年9月)
海外の事案は多いため、中小企業の担当者にも教訓がある代表的な3件に絞って紹介します。2026年の事案は主にTechCrunchのまとめ記事(2026年9月15日)に基づきます。
犯人の名前や国の関与は、攻撃者の主張や政府の見解の段階のものを含むため、断定しません。
工場が止まった:Jaguar Land Rover
- 何が起きた:英国の自動車メーカーJaguar Land Rover(JLR)は2025年9月、サイバー攻撃で生産を約5〜6週間止めました。
- 被害の大きさ:英国のCyber Monitoring Centre(CMC)は、英国経済への損失を約19億ポンド(身代金は含まない)と推計しました。取引先を含む5,000社超に影響したとされます(teiss)。
- 自社なら:自社が止まると、取引先も止まります。止まったときの連絡先と手順を決めておきます。
電話でだまされた:Charter
- 何が起きた:米通信大手Charterで、約4,000万件の顧客記録が流出し、企業も確認しました(2026年2〜5月)。
- なぜ入られた:ShinyHuntersと呼ばれるグループが、電話で社員をだまし、社内システムへの入口を得る手口を使ったと報じられています。犯人の特定は報道や攻撃者側の主張の段階で、断定できません。
- 自社なら:メールだけでなく、電話での「パスワードを教えて」「承認して」にも応じない決まりを作ります。
使っているソフトや取引先から入られた:Klue
- 何が起きた:市場調査会社のKlueでは2026年6月、顧客が預けたクラウドの鍵が流出し、約200社に影響しました。侵入は同社が認めています。
- なぜ入られた:2022年に発行された試験用の認証情報が悪用されたと報じられています(TechCrunchの報道に基づく内容で、同社の公式な原因説明は確認していません)。
- 自社なら:使い終えたアカウントや鍵は削除します。同じ時期には、開発者が使うツールやオープンソースのソフトが改ざんされ、使っていた会社の認証情報が盗まれる事案も報じられました。自社のシステムだけを守っても防ぎきれません。
そのほか、米国の100以上の水道システムが2026年7月に標的になりました。米政府はイラン関連のハッカーによるものとの見解を示しています。誰の犯行かを特定する「帰属」は、攻撃者の主張や政府の見解の段階にとどまります。
統計で見る世界の現状:Verizon DBIR 2026とCloudflare
Verizonが2026年5月19日に公開した「2026 Data Breach Investigations Report(DBIR)」の主な数字です(Verizon)。
| 項目 | 2026年版の数字 |
|---|---|
| 侵害の起点に占める脆弱性の悪用 | 31%(19年間の報告で初めて盗まれた認証情報を上回った) |
| 第三者が関与した侵害 | 全体の48%(前年から60%増) |
| 偽SMS・音声通話によるだましの成功率 | 従来のメールフィッシングより40%高い |
| 従業員の未承認AI利用(シャドーAI) | 15%から45%に増加 |
DDoS攻撃(大量の通信でサービスを止める攻撃)も大型化しています。
Tbpsは通信の量を表す単位で、1Tbpsは1秒に1兆ビットです。
Cloudflareの2026年上半期のレポートを報じた記事によると、1Tbpsを超える大型の攻撃は、1〜3月の130件から4〜6月の805件へ約6倍に増えました(BleepingComputer)。
攻撃のジャンル別に整理する:主な6種類と根拠
日本と世界の事案を同じ物差しで並べると、主に6種類に分けられます。順位はIPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日公開)の組織向けのものです。

| ジャンル | 何が起きるか | 主な根拠 | IPA順位 |
|---|---|---|---|
| ランサムウェア | データを暗号化・窃取し、金銭を要求する | 国内123件(2026年上半期)。アサヒ、アスクル、JLR | 組織向け1位 |
| フィッシング・不正ログイン | 偽のメールやサイトでIDなどを盗み、アカウントを乗っ取る | 報告245万件超(2025年)。証券口座の乗っ取り | 個人向けに選出 |
| サプライチェーン・委託先経由 | 委託先や使っているソフトを足がかりに入り込む | 侵害の48%に第三者が関与。アスクル、Klue | 組織向け2位 |
| 脆弱性の悪用 | 更新されていない機器やソフトの弱点を突く | 侵害の起点の31%。国内の脆弱性探索などの不審アクセスが前年同期比50.7%増(警察庁、2026年上半期) | 組織向け4位 |
| DDoS攻撃 | 大量の通信でサービスを止める | 大型攻撃(1Tbps超)が130件→805件 | 組織向け9位 |
| 内部不正 | 従業員などが権限を使って情報を持ち出す | IPAが組織向け7位に選出 | 組織向け7位 |
内部不正は、この1年の個別事例を本記事では取り上げていません。順位はIPAの選考結果です。
このほか、組織向け3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれ、6位に「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」が入りました。米国の水道システムへの攻撃は後者の例です。
サイバー攻撃の最新傾向:何が増えて、何が変わったか
ここまでの数字は、ランサムウェア・フィッシング・委託先経由・DDoSのいずれも増加を示しています。入口が弱点の悪用に移ったこと、委託先や中小企業が狙われることは、結論で見たとおりです。ここでは新しく変わった3点に絞ります。
- だましはメールから電話・SMSへ:偽SMSや音声通話によるだましはメールより成功率が40%高くなりました。Charterの事案でも電話が使われたとされます。
- 多要素認証の「種類」が問われる:長野県警の注意喚起では、ワンタイムパスワードを含む多要素認証がリアルタイムフィッシング(偽サイトで盗んだ情報をすぐに悪用する手口)で突破された事例があるとされています。
- AIが新しいリスクに:IPAの10大脅威に初めて選ばれ、Verizonの報告では従業員の未承認AI利用が15%から45%に増えました。
なお、警察庁の数字は報告された件数で、被害の全数ではありません。日本の件数(警察庁)と海外の民間の集計は数え方が違うため、そのまま比べられません。
個人でできるサイバー攻撃対策5つ

IPAの個人向け10大脅威(順位なし)には、フィッシング、不正ログイン、インターネットバンキングの不正利用、サポート詐欺(偽警告)、不正アプリなどが並びます。
これらに効く対策を、総務省の基本対策などから優先順に並べました。
「手間」の列は、自分で設定画面を操作すれば済むか、時間をかけて取り組むかの目安です。
| 優先 | 対策 | 主に防げる被害 | 手間 |
|---|---|---|---|
| 1 | 多要素認証を設定し、使えるならパスキーを選ぶ | 不正ログイン、証券口座やネットバンキングの乗っ取り | 設定画面で自分でできる |
| 2 | メールやSMSのリンクからログインせず、公式アプリやブックマークから開く | フィッシング | 習慣にするだけ |
| 3 | パスワードを使い回さない | 1か所の流出から広がる不正ログイン | サービスの数だけ変更が要る |
| 4 | OS・アプリを最新にし、サポートが終わった機器やソフトは使わない | 弱点を突いた侵入 | 自動更新の設定で済む |
| 5 | 心当たりのない添付ファイルやアプリを開かない・入れない | 不正アプリ、情報を盗むマルウェア | 習慣にするだけ |
ワンタイムパスワード型の多要素認証にも突破例があるため、証券会社などがパスキーを用意していれば切り替えを検討してください。
証券業界でも対応が進んでいます。日本証券業協会は2025年7月のガイドライン改正案で、ログイン時・出金時にフィッシング耐性のある多要素認証を求める方針を示したと報じられています。
金融庁も、監督指針にパスキーなどの実装・必須化を盛り込んだとされます(Impress Watch)。
被害に遭ったときの初動と相談先(個人)
口座やアカウントの乗っ取り、偽サイトへの入力に気づいたら、次の順で動きます。
- 同じパスワードを使っているサービスを含め、パスワードを変更する。
- 被害が出たサービスの提供元に連絡する。
- 相談する。技術的な相談はIPAの「情報セキュリティ安心相談窓口」(電話03-5978-7509、10時〜17時、土日祝日・年末年始を除く)が受け付けます。個別の端末の調査や犯人の検挙の要望は対象外です。
警察への通報・相談は、警察庁の「サイバー事案に関する通報等のオンライン受付窓口」から、住んでいる都道府県の警察を選んでできます。被害届は最寄りの警察署へ、緊急時は110番です(警察庁、IPA)。
企業でできるサイバー攻撃対策5つ(中小企業の担当者向け)
IPAは2026年3月27日公開の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版で、「情報セキュリティ5か条」に「バックアップを取ろう!」を加え、6か条にしました。
従来の5か条は、OSやソフトウェアを常に最新にする、ウイルス対策ソフトを導入する、パスワードを強化する、共有設定を見直す、脅威や攻撃の手口を知る、です。これを2025〜2026年の事例に当てはめて優先順位を付けました。
「手間」の列は、担当者が自分でできるか、委託先や外部に相談するかの目安です。
| 優先 | 対策 | 理由・事例 | 手間 |
|---|---|---|---|
| 1 | 管理者と委託先のアカウントにも多要素認証をかける | アスクルでは多要素認証のない委託先の管理者アカウントが侵入経路と推定。IPAもVPNやクラウドでの多要素認証を勧める | 設定は担当者、委託先は依頼が要る |
| 2 | VPN(社外から社内につなぐ仕組み)など外部に公開している機器とソフトを最新にする | 脆弱性の悪用が侵害の起点の31% | 機器の一覧づくりから。保守業者に相談 |
| 3 | バックアップを取る | 2025年に1か月未満で復旧できた被害組織は5割強にとどまる(警察庁調べ。Web担当者Forum) | 担当者が設定。復元の確認も忘れずに |
| 4 | 委託先・取引先の対策を確かめる | 侵害の48%に第三者が関与 | 取引先とのやりとりが要る |
| 5 | 共有設定を見直す | IPAの5か条の項目 | 担当者が自分でできる |
偽SMSや音声通話のだましはメールより成功率が40%高いとされます。攻撃の手口は、朝礼や社内チャットで社員に共有しましょう(IPAの5か条の「脅威や攻撃の手口を知る」にあたります)。
バックアップは業務の復旧を早めますが、情報の持ち出しまでは防げません。1と2の侵入対策と組み合わせて進めてください。
社員が会社の許可なくAIを使う「シャドーAI」も増えているため、AIの利用ルールも決めておきましょう。
専任の担当者がいない場合は、公的な支援も使えます。
IPAは、自己宣言制度「SECURITY ACTION」、攻撃への対処に最低限必要なサービスを提供する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」、自社診断ツールを用意しています(IPA)。
被害に遭ったときの初動と相談先(企業)
ランサムウェアなどの被害に気づいたら、まず被害の拡大を止めます。判断に迷う場合は、早めに外部へ相談してください。
- 感染が疑われる機器をネットワークから切り離す。
- 警察庁の「サイバー事案に関する通報等のオンライン受付窓口」から、警察に通報・相談する(警察庁)。
- JPCERT/CCは、初動対応のサポートなどの依頼をWebフォームで受け付けます。原則として電話では受け付けません(JPCERT/CC)。
- 個人データが漏れた場合は、個人情報保護委員会への報告が義務になることがあります。要配慮個人情報を含む、本人の数が1,000人を超える、などが条件で、速報は発覚日から3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的によるおそれがある場合は60日以内)です(個人情報保護委員会)。
まとめ
日本ではランサムウェアの被害報告が半期で過去最多と報じられました。世界では脆弱性の悪用が侵害の起点の1位になり、委託先経由の侵入も増えています。
まず一つだけやるなら、個人はよく使うサービスで多要素認証(できればパスキー)を設定してください。企業は、管理者と委託先のアカウントに多要素認証がかかっているか、バックアップが取れているかを今日中に確かめましょう。
続報や詳しい数字は、IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026、警察庁の情勢報告、VerizonのDBIRで確認できます。
