草むらに横たわるベンガルトラ
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ベンガルトラはなぜインドで再び増えているのか|保護区のデータから読み解く回復の理由

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ベンガルトラはなぜインドで再び増えているのか

ベンガルトラはなぜインドで再び増えているのか。「絶滅危惧種のトラが、インドでは増えている」と聞いて、なぜそんなことが起きるのか不思議に思った方もいるのではないでしょうか。

結論から言うと、ベンガルトラの生息数の回復はインド政府の調査データで確認できます。

推定個体数は2006年の1,411頭から2022年の3,167頭へ、4回の調査で連続して増えました(Status of Tigers in India 2022)。

増えた理由は、ひとつの対策ではありません。インド トラ保護区の制度と、トラという動物の生態がかみ合った結果と考えられています。主な要因を先にまとめます。

要因 中身 なぜ効くのか
トラ保護区の拡大 1973年の9か所から2022年の53か所へ 獲物ごと森を守れる
コアエリアの確保 村落移転の補償、特別保護部隊 人のいない繁殖の場ができる
回廊(コリドー)の整備 保護区どうしをつなぐ移動経路 増えた若いトラが周辺へ広がれる
地域社会の条件 森林資源への依存が低い地域 トラが再び定着しやすい

ここからは、表に挙げた4つの要因を、調査データと生態の両面から順番に見ていきます。

まずは、個体数そのものがどう増えてきたかを数字で確認します。

ベンガルトラの生息数はどう回復してきたのか

インドの国家トラ保護局(NTCA)とインド野生生物研究所(WII)は、4年ごとに全国のトラを調べています。2023年に公表された報告書の推移は次のとおりです。

調査年 推定個体数 前回からの増加
2006年 1,411頭 —
2010年 1,706頭 +295頭
2014年 2,226頭 +520頭
2018年 2,967頭 +741頭
2022年 3,167頭 +200頭

出典: Status of Tigers in India 2022(NTCA/WII)。

数値は95%信頼区間の中央値です。調査には誤差の幅があり、95%信頼区間とは「真の値がこの範囲に収まるとされる区間」を指します。その中央の値を表に載せています。2022年はカメラトラップに基づく最小推定個体数です。

2022年の調査は、インド20州の森林が対象でした。約64万kmを歩いて痕跡を探し、3万2,588か所に自動撮影カメラ(カメラトラップ)を置いています。

撮影された画像は約4,708万枚。そのうちトラが写っていたのは97,399枚でした。

写真から1頭ずつ見分ける「写真個体識別」が使われ、2018年調査からはAIも活用されています。こうして識別された個体は2022年に3,080頭で、2018年の2,461頭から増えています。

ベンガルトラとはどんなトラか

ベンガルトラは、トラ(学名 Panthera tigris)の亜種 Panthera tigris tigris にあたります。8亜種に分ける従来の分類では、分布はインド・パキスタン・バングラデシュ・ブータン・ネパールとされていました。

ただし、IUCN(国際自然保護連合)の専門家グループは2017年に分類を見直しました。

同じ学名を、ロシア極東やインドシナの個体群まで含む大陸系統全体の名前として扱う考え方です(CATnews Special Issue 11)。分類体系によって指す範囲が違う点は覚えておくとよいでしょう。

草むらに横たわるベンガルトラ

出典: WordPress.org Photo Directory(投稿者: neusitas、CC0)

体の大きさは、WWF-Indiaの資料ではオスの頭胴長が275〜290cm、体重は135〜230kg程度とされています。ただし資料によって数値の幅が大きく、あくまで目安です(WWF-India)。

トラは主にイノシシやシカなどの有蹄類(ひづめを持つ草食獣)を狩ります。スミソニアン国立動物園によれば、狩りは週1回程度で、1晩に最大34kgを食べることもあるそうです。ただしこれは他の亜種の解説で示された数値です。

インド トラ保護区はなぜ回復の理由になったのか

コアとバッファーの二層構造

インドのトラ保護の土台は、1973年に始まった「プロジェクト・タイガー」です。当初は9か所・18,278平方kmだったトラ保護区は、2022年には53か所・75,796平方kmまで増えました。インド国土の2.3%にあたります。

保護区は、人の立ち入りを厳しく制限する「コア(核心)エリア」と、その周りで人とトラが共存する「バッファー(緩衝地帯)」で構成されます。

区域 役割
コアエリア 人の定住をなくし、トラと獲物を丸ごと守る繁殖の場
バッファー コアを囲み、人の暮らしとトラが共存する地帯
回廊(コリドー) 保護区どうしをつなぎ、トラが移動できる経路

村落移転と密猟対策

NTCA報告書は、回復を支えた施策を調査の回ごとに挙げています(Status of Tigers in India 2022)。

  • 2006年: NTCAの設立と、全国規模の個体数推定の開始
  • 2010年: 村落移転への補償、特別トラ保護部隊の導入、保護区の管理計画
  • 2014年: 回廊の特定と保全計画への組み込み、獲物を増やす計画
  • 2018年: 写真の個体識別へのAI活用、移転補償を1世帯150万ルピーへ増額

報告書が獲物を増やす計画を挙げているように、トラの数は獲物の量に支えられます。人の住まないコアエリアを確保することは、獲物とトラの両方が落ち着いて暮らせる場をつくる狙いがあると考えられます。

保護区が「供給源」として周辺へトラを送り出す

インド野生生物研究所のJhalaらは、2025年1月に学術誌Scienceで、2006〜2018年のトラの分布を分析した論文を発表しました(NCBSによる解説)。

この研究によると、トラが暮らす生息地は30%増え、分布域は約138,200平方kmに広がりました。人の定住がない保護区が、繁殖する個体群の85%を支えていたといいます。

保護区で生まれた若いトラは、回廊を通って周りの森へ分散します。研究はこれを「供給源個体群(source population)」と呼んでいます。保護区が増えたトラを周辺へ送り出す「苗床」の役割を果たしているわけです。

Mongabay Indiaの報道によると、同じ期間に17,992平方kmで生息地が失われた一方、41,767平方kmで回復しました。森林資源への依存度が低く、社会経済が安定した地域ほど、トラが再び定着しやすかったとされています。

中央インドで起きていること

この仕組みがよく表れているのが、タドバ・アンダリ・トラ保護区(後ほど「実際に見られる場所」で詳しく紹介する保護区です)を含む「中央インド高地・東ガーツ山脈」の地域です。2022年の調査では、インド国内で最も多い1,161頭が個体識別されました。

同じ地域の推定個体数は、2006年の601頭から2018年には1,033頭へ増えています。報告書は、マハラシュトラ州とマディヤプラデシュ州で、2018年にはトラがいなかった森にも生息域が広がったと記しています。

ベンガルトラが縄張りを持つ理由と回復の関係

トラは自分の縄張り(行動圏)を持つ動物です。この性質が、保護区の広さや回廊の必要性と関わっていると考えられます。

ネパールのチトワン国立公園での研究では、尿を吹きかけたり木で爪をといだりする「匂い付け」が、縄張りの内側より境界で多く記録されました(Smith et al.)。縄張りを確立する時期や、メスの発情期の前後に活発になるといいます。

木製の台の上で前脚を伸ばして休むベンガルトラ

出典: WordPress.org Photo Directory(CC0)

縄張りの広さは、獲物の量にも左右されるようです。インド西部のサリスカ・トラ保護区で再導入された3頭を追跡した調査では、年間の行動圏は約169〜181平方kmでした(Tropical Conservation Science)。

この調査では、獲物の有蹄類が少ない地域ほど行動圏が広がる傾向が示唆されています。ただし3頭のみの結果で、インド全土に当てはまる法則とまでは言えません。

広い行動圏が必要なら、ひとつの保護区で暮らせる数にも限りがあるはずです。保護区が繁殖の場となり、回廊を通じて周辺へ分散するという先の研究結果とも合わせると、獲物ごと森を守ることと、外へ出る道を残すことの両方が回復を支えたと考えられます。

分かっていないこと・評価が分かれる点

個体数は「3,167頭」か「3,682頭」か

2022年の全国の個体数には、2つの数字が出回っています。どちらかが誤りというより、計算方法の違いです。

数値 算出方法 主な出典
3,167頭 カメラトラップに基づく最小推定 NTCA/WII公式報告書
3,682頭(上限3,925頭) カメラが届かない地域を統計モデルで補った推定 Jhalaら(2025)など

どちらも同じ基礎データから出た値です。記事やニュースを読むときは、どの算出方法の数字かを確かめると混乱を防げます。

村落移転への評価

NTCA報告書は、オディシャ州・マハラシュトラ州・マディヤプラデシュ州の森林当局が、移転への補償を通じてコアエリアの保護に成功してきたと評価しています。

一方で、移転補償の未払いや、住民を締め出す「要塞型保全」への批判も報じられています。

トラの回復の裏には、地域の暮らしへの負担という側面もあると理解しておく必要があります。報告書自身も、中央インドでは鉱業活動の集中が保全上の課題だと指摘しています。

世界のトラと比べたインドの位置

インド政府は報告書の巻頭で、世界のトラの70%がインドにいると述べています。

報道によると、IUCNレッドリストは2022年の再評価でも、トラを「絶滅危惧(Endangered)」に据え置いたとされ、世界の生息数の見積もりは2015年の約3,200頭から2022年には約4,500頭へ増えたと伝えられています(EcoWatch)。IUCNレッドリスト本体のページには直接アクセスできず確認できなかったため、この記述は報道経由の引用です。

ただし専門家は、調査手法の向上による「見かけ上の増加」が含まれる可能性も指摘しています。東南アジアの一部では、今も減少が続いているとされます。

評価は種単位で、ベンガルトラ単独の評価ではない点にも注意が必要です(2026-10-19時点。最新の評価はIUCNレッドリストの公式サイトで確認してください)。

ベンガルトラを実際に見られる場所

ここまで見てきた回復の仕組み(コアとバッファー、村落移転、供給源個体群からの分散)を、実際の数字で体現している保護区を見てみましょう。

タドバ・アンダリ・トラ保護区は、先に紹介した中央インドの地域にある保護区です。タドバ国立公園(116.55平方km)とアンダリ野生生物保護区(508.85平方km)を統合し、1995年2月23日に告示されました(WII)。

周りには約1,101.77平方kmの森林バッファーがあり、非森林地を含めると約1,503平方km、106の村を抱えています。コアとバッファーの二層構造を、そのまま体現した保護区といえます。

インド国内のトラ保護区は2022年時点で53か所あります。訪問を考える場合、入域の条件や時期は各保護区やインド政府の公式情報で最新の内容を確認してください。

まとめ

ベンガルトラがインドで再び増えているのは、ひとつの特効薬によるものではありません。ポイントを振り返ります。

  • 推定個体数は2006年の1,411頭から2022年の3,167頭へ、4回連続で増加した
  • 保護区は1973年の9か所から2022年の53か所へ広がり、人のいないコアエリアが繁殖個体群の85%を支えた
  • 増えたトラは回廊を通って周辺の森へ分散し、生息地は30%増えた
  • 縄張りの広さは獲物の量に左右される傾向があり、獲物ごと森を守る必要がある
  • 一方で、村落移転の負担や鉱業との両立など、課題も残っている

番組や報道で「トラが増えた」という数字を見たら、それが最小推定かモデル推定か、どの地域の話かを確かめてみてください。

一次情報に当たりたい方は、NTCAのStatus of Tigers in India 2022が出発点になります。次回の全国調査の結果が出たときに、この記事の数字と比べてみるのもおすすめです。

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